素人サブカル批評

草映画ライターとして映画評論。たまに他のサブカル評論。

バカ映画時報第6弾

バックナンバー第6弾

 

ダンケルク』 / クリストファー・ノーラン
メメント』『インセプション』『ダークナイト』シリーズ『インターステラー』と個人的には最高の映画を供給し続けてくれる現役の映画監督、クリストファー・ノーランの最新作。

 

※これ以降、知ってから見たらさらに楽しくなる情報満載で書いたつもりですが、ネタバレになってるかもしれません。自己責任でどうぞ。

(ちなみにスーパーマンのリノベ作品『マン・オブ・スティール』はどこぞのしれない星のエイリアンのお家騒動に地球が巻き込まれるという、勘弁してくれ映画なので、オススメしないです)

今作はW.W.Ⅱ.のヨーロッパ戦線。フランス北部のダンケルクという海岸の街に英仏連合軍が追い詰められ、そこからの救出劇を描いた映画。
状況としては英仏連合軍が対ナチスドイツ防衛線を固めていた地域の北部オランダに攻め込んで予想外なところから侵攻してきたことで、英仏連合軍がてんやわんやになっていた頃の話です。
イギリスのドーバーの対岸にあたり、現在フェリーなら2時間で渡れる距離に祖国があるにも関わらず、空からはナチスドイツの主力戦闘機メッサーシュミットの機銃掃射と主力爆撃機Ju87シュトゥーカの急降下爆撃に狙われて、海に出たら潜水艦U-ボートが魚雷を飛ばして来る。
イギリス側は主力戦闘機スピットファイアを飛ばしてなるべく援護する。
救出は海軍の駆逐艦が担当する…はずだったけども、ダンケルク今は海水浴場になってるくらいの砂浜で遠浅すぎて駆逐艦は近づけない。そこで長〜い桟橋を作って小型艦のピストン輸送でなんとか40万近い英兵をイギリスに逃すという時代場所を舞台に
ダンケルクから逃げようとする若い二等兵
②英海軍に徴用された民間船の船長と若者2人
③それを空から援護する1人の戦闘機乗り
が織り成す戦争ドラマです。

さて、ここまで書いておいて大変申し訳ないのだが、上記の大半(特に①〜③のストーリー紹介の部分より上)は僕の知識であって、映画には全く説明されてないんです。

突然、街を歩くボロボロの格好の一小隊…突然機関銃の音が響き、逃げる、ひたすら逃げる、ひたすら逃げると浜に着く。そこには40万を超す英兵が…とセリフも文字説明もなく始まります。
つまり、これは観客もなんとなく追い詰められてる逃げなきゃってことはわかってる一兵士と同じ立場に放り込まれるということ。だからカメラも常に兵隊の近くにあり、俯瞰をしない。船が沈められれば兵士とともに水に襲われ、重油に引火して海面が炎上してる水中で海面には上がれない、しかし息は…みたいな状況でも一緒に海中。観客は当時の兵士と同じ立場で戦場に参加していかねばならないんですね。

面白いのは飛行機乗りの方、実はノーランはVFXは大嫌い。だから、この映画も基本ノーCG。ただ、80年近く前の戦闘機がそんなにたくさんあるはずない。事実、スピットファイアメッサーシュミットライセンス生産品も含め2台かそこらしか動くものはない。
実はダンケルク航空戦はイギリス側150機、ドイツ160機を撃墜しあう、大ドッグファイトが繰り広げられていた。実機ではそんなの用意できない。レプリカ用意したら予算が崩壊する。
そこでノーランは1人の飛行機乗りのドラマに絞ってしまった。ある意味ダンケルク大撤退を唯一この映画の中で俯瞰できる人間として。

映画全体は間違いなく戦争映画なのだがずーっと違和感を感じていた。ダンケルク大撤退は30万人の英兵を民間船の船乗りも参加してイギリスに撤退させた奇跡の救出作戦として歴史に名を残している。その作戦が終わった映画の最後、チャーチルの言葉を新聞で読む主人公の一兵卒。「この撤退は敗退ではない、勝利だ」。
それで違和感がわかった。戦争映画なのに敵はいるのに敵を殺す場面はない。ただただ徹頭徹尾救う映画でした。
こんな戦争映画もあるんだな、と思ったと同時に、戦争の真っ最中、戦うのではなくて、人が人を救うということにこだわり続ける戦争映画もすごくいいもんだな、って思って、満足感とともに帰ったわけでした。

毒を吐かないとダラダラした文章で面白くもなんともねぇ評論になっちまったわけですが、いい映画だと思うので、ぜひ。