素人サブカル批評

草映画ライターとして映画評論。たまに他のサブカル評論。

映画バカ時報 2018.5.14. 「肝機能障害とハリウッド映画の思い切りと日本映画のノスタルジー」

G.W.前半を39.5度の高熱と共に満喫しました。

休日診療に駆け込んだ医者には初回に

「3日経っても治らなかったら、インフルですね」

とG.W.が療養生活になる可能性を示唆され、

2回目はインフルでないことが検査でわかった代わりに

「あと3日経っても、このままなら血液検査だね。たぶん肝機能障害」

と、この歳にして、生活習慣病というとんでもない可能性を明るく宣言されました。

3日経っても、完治はしなかったですが、知らない方がいいことは知りたくないので、

医者に行くことはやめてみました。

「花粉症は花粉症だと思ったら花粉症」というのが家訓なので、

「肝機能障害は肝機能障害だとわかってからが肝機能障害」という解釈をしたいと思います。

 

さてさて、G.W.後半から、先週にかけ、久々の新作映画ラッシュをしてきたので、

肝機能障害のことは忘れて、ロードショー評3本立ていってみよう。

 

『レディ・プレイヤー1』 スティーブン・スピルバーグ

スピルバーグの新作。アメリカの批評サイトRotten Tomatoesで6.9点なのでおおむね高評価です。

2045年。オアシスという名前の仮想現実が庶民の心のよりどころになった時代。オアシスの創設者が莫大な財産とオアシスの運営権を仮想現実内に隠して死に、それを巡る争奪戦に参加した若者が巨大な陰謀に巻き込まれていくというストーリー。

スピルバーグというのはほとんど一貫してSF映画監督なんですが(たまにユダヤ人であることを思い出します)、彼にとって映画というのは仮想現実みたいなもので、ユダヤ人の上に読字障害でいじめにあい、挙げ句両親が離婚という、少年時代を送ったスピルバーグ少年は映画の夢の中に逃げ込むことで自分を守り、人生を作り、成功した人物なんですね。その意味でSFというフィクションの中のフィクションは彼の得意分野です。スピルバーグのすごいところは成功しても、その「いじめられっ子マインド」といいますか、ある種の童貞オタクマインドを失わないところにあって、『シンドラーのリスト』とか『プライベートライアン』を撮っても、やっぱりSFに戻ってきます。

『ペンダゴンペーパーズ』とほぼ同時並行でこれ撮ってるわけですから。

スピルバーグの社会派映画は迫力もドラマ性もメッセージ性も素晴らしいのですが、やっぱり僕はスピルバーグのSFが好きです。

この映画の主人公の少年は仮想現実でしか活き活きとできない、スピルバーグ少年みたいなキャラクターで、オアシスの創始者はもはやスピルバーグです。

この映画はスピルバーグが幼き日のスピルバーグ少年に「それでいいんだよ」と語りかけるような構造になっているわけで、そう考えるとほっこりします。

あんまりかっこよくないオタク少年が仮想の世界で美女と会い、現実の世界でも結ばれるというところに、スピルバーグ少年の童貞の妄想を感じます。

それは香ばしいんですが、妄想を現実にするのが映画のいいところであるからして、スピルバーグの強みが全て凝縮されたような作品です。

ちなみにこの映画はクロスオーバー祭りになっていまして、過去の名作のパロディがたくさん出てきます。親日家(というか日本文化オタク)のスピルバーグらしく、日本の作品もたくさん出てきます。

この映画のパロディ部分をどこまで察知できるかで、あなたのスピルバーグ度がわかるかも?です。

 

アベンジャーズ/インフィニティウォー』 ルッソ兄弟

ルッソ兄弟というのはマーベル専門型コーエン兄弟のようなものです。

嘘です、コーエン兄弟の方がすごいと思います。

まあでも、次回作も含めマーベル映画を5本も撮ってるわけで、得意分野だと言えます。『ウェルカム・トゥ・コリンウッド』の頃にはこんなことなかったんですが・・・。

さて、本作。アベンジャーズがありすぎて、もはや何作目なのかよくわからなくなってきております。アベンジャーズシリーズを中心として、2000年代から勃興したマーベル映画の抱える問題点があります。派生作品でキャラクターを増やしすぎました。

いや、アメコミとしてのアベンジャーズはヒーロー全員参加型のチームなので本来的には別に間違いではないのですが、やっぱり映画というのは2~3時間の中でストーリーを起こし、終わらせる、という性質のものなので、あまりにキャラクターが増えすぎると、それだけで話が終わってしまいます。

キャプテン・アメリカマイティ・ソー、アイアンマン、ハルク、スパイダーマンまでならわかる。

ただ、これに加えて、ロキ、ブラック・ウィドウ、ファルコン、ドクター・ストレンジ、ウォーマシン、ホワイトウルフ、ブラックパンサー、ガーディアン・オブ・ギャラクシー軍団(計5名)、ヴィジョン、スカーレットウィッチが登場。

しかも、敵がサノス・・・とその一味という大所帯。もう登場人物何人いんだよ、というてんやわんやのお祭り騒ぎ状態。

そこで、今回、大規模リストラが敢行されます。きっとマーベルの誰かが気づいた。「やってらんねぇ」と。

なにがどうしてどうなるか、は、言ってしまうと、この映画を観る人が可愛そうなので、あまり言いませんが、予告にある通り、アベンジャーズは危機的状況に陥り、キャラクター間引きが行われます(たぶん、グッズ売れなかった順・・・資本主義だな)。

ハリウッド映画ってすげえなあと思うのは、リストラなんて、冒頭の10分くらい使って、「てな感じで、人数減りました。よろしく!」って吹っ飛ばしちゃえば、雑ではあるけども、まあ成立するのに、巨額のマネーを投下して、VFX祭りをしながら、リストラを1本の作品にして、世界展開しちゃうところです。

アベンジャーズシリーズは毎回「To Be Continue」という感じで終わるのですが、今回は普通の映画として考えたら、ストーリーの前3分の1が終わったところで映画が終わります。何年もドラマを追うというのが世界のコンテンツの主流になりつつあるので、別に特別ではないんですが、この金のかけ方と思い切りのよさ、というのがハリウッドだなぁという感じです。

とはいえ、アベンジャーズ・シリーズは観てて飽きないので、いい映画だと思います。

(とってつけたような・・・)

 

孤狼の血』 白石和彌

全編広島ロケ・『仁義なき戦い』シリーズをリスペクト!ということで、ある意味広島ご当地映画感のあるこの映画。

『凶悪』の白石監督です。『凶悪』はいい映画でした。出てくるやつの鬼畜っぷりがふりきってて、誰にも感情移入できないという意味で素晴らしいバイオレンス映画です。近年バイオレンス映画は韓国の十八番になりつつあったのですが、日本もやればできるじゃん!といういい監督です。

そんな白石監督がヤクザ映画を作りました。東映実録路線というジャンルを築き、ヤクザ映画を牽引してきた東映さんが製作配給となっております。最近のヤクザ映画というと、北野映画アウトレイジ』シリーズですが、ワーナーブラザース映画ですので、東映は「俺たちこそがヤクザ映画の本丸じゃ!」と伝えたかったのでしょうか。

東映が本気を出してヤクザ映画に回帰し始めたのは、実録路線好きとしては、日活がロマンポルノを復活させたのと同じようなワクワク感があります。

 

が、しかし、昭和と共に終わりを告げた実録路線(『激動の1750日』-1990年=平成2年が最後の作品かな?)を復活させるにあたり、彼らは昭和に戻ることにしたようです。まあ、原作が昭和の話だからしょうがないんですが、平成も終わろうとしているのに、昭和のヤクザの話をしてどうしようというのだ・・・という気がしないでもないですよね・・・。

仁義なき戦い』をリスペクトしつつ、白石監督の個性を出そうと四苦八苦した結果、どっちつかずの映画ができあがったようです。リスペクトするというのは「寄せる」ということではないので、もっと自由にやらせてあげればよかったのになあと思います。

面白いことは面白いのですが、なんか吹っ切れないというか、実録にしたいのかリアルにしたいのか、どっちなんだ?という雰囲気が全体に漂います。実録はストーリーが実録(一応ノンフィクションという体)なだけで、創り自体はリアルでも何でもないというか、寸劇みたいなところがあり、それがいいのですが、この映画は原作はフィクションでストーリーはリアル、だけど実録リスペクトといういびつなスタイルで作られてしまったので、消化不良感があるんでしょうかね。

ところで、松坂桃李くんはとっても頑張りました。周りが日本でヤクザをやらせるとトップクラスの俳優に囲まれているので、相対的にはあまりうまくないので可愛そうですが、戦隊モノで俳優キャリアをスタートし、『ガッチャマン』で地獄を見つつ、『MOZU』では演技力不足の演技派目指しが陥りがちな「ヒャッハー」系俳優というドツボに嵌まった彼は、この作品で確実に脱皮したと思います。「俺は演技で食っていくんだ」という強い意志も感じられます。

あとはもっと汚くなっていけばいい俳優さんになるんじゃないでしょうか。

松坂桃李ファンは離れてしまうのかもしれませんが、僕はそうなるなら応援したいなぁと思える演技でした。

アウトレイジ』で北野武が、昭和の終わりに哀愁を漂わせつつ、昭和の哲学では生き残れないヤクザの最後のあがきを平成を舞台に描いた(シリーズが進むにつれ、つまらなくなるという悲しみはとりあえずほっとくとして)のに対して、あくまで昭和にしがみつく、東映スタイル。東宝は『ゴジラ』を完全復活させると同時に『君の名は。』を売り、前に進むわけですが、昭和の栄光にしがみつくというのは、日本映画界・・・というか日本社会の風潮なのかもしれないな、と思いました。

 

ところで、広島の人たちは「やくざの本丸は広島じゃ!」という認識があるようです。

ただ、僕は東京の人で、東京のめちゃくちゃ怖いビジネスマン=やくざを観て育ったので、やっぱり現代のヤクザというのはそっちのイメージが強いし、規模で言っても、神戸・東京が本丸な感じがします。存在感でいうと、炭鉱があった九州でしょうか。

どうしても広島が本丸という気はしないのですが、やっぱり『仁義なき戦い』の影響なんでしょうか。『ハリーポッター』で魔法使い=イギリスみたいなイメージが世間に流布されたみたいに、映画というのは社会に影響を与えるのだなぁと思った次第です。

 

 

 

ロードショー評3本立てでございました。

どの作品も1800円払って観てもいいかも、な作品です。